富士フイルムが近年販売を終了し、現在、実質的にベルギーに本社を置くアグファ・ゲバルトのみが供給しているイメージセッター用の製版フィルム。
これに対し、弊社が昨年導入したのが、三菱製紙製の製版用フィルムである「IR-830(ブルーフィルム)」です。
今回はこの2つの違いについて詳しく解説したいと思います。
主にシルクスクリーン印刷業界において「製版フィルム」は、長年、高精細な印刷物を生み出すための心臓部として活躍してきました。
しかし、一般のカメラにおけるフィルムの衰退などに伴い、このフィルム技術も大きな転換期を迎えています。
今回は、伝統的な「銀塩フィルム」と、弊社が導入した次世代の「ブルーフィルム」がどう違うのか、技術面や環境面、そして品質面から紐解いていきます。
公開:2026.7.6
そもそも「銀塩(ぎんえん)フィルム」とは?
従来の製版フィルムの主流であり、現在アグファ・ゲバルト社が供給を続けているのが「銀塩フィルム」です。
これはカメラのネガフィルムと同じ原理で、フィルムの表面に「ハロゲン化銀」という光に反応する物質が塗布されています。
イメージセッター内部では、これにミクロなスポットレーザー光を高精度で照射し、光が当たった部分の銀が化学反応を起こすことで、超高精細な画像を描画することが可能となっています。
銀塩フィルムのメリットと課題
<メリット>
圧倒的な黒化度(光を遮る濃さ)と、網点のシャープさ。
長年業界のスタンダードだったため、信頼性が極めて高い。
<課題(現像工程)>
一般カメラ用フィルムの需要が激減。
またオフセット印刷の分野でもCTPが普及したことにより、フィルムの製造そのものが高コストになり、大手メーカーの撤退が相次いだ。
撮影(露光)した後に、必ず「現像」「定着」「水洗い」「乾燥」という化学処理(ウェット処理)が必要。
これには専用の自動現像機が必要で、現像液や定着液といった「廃液」が生じる。
富士フイルムをはじめとする大手メーカーが撤退した背景には、製造コストの高騰や、この廃液処理に伴う環境負荷、そしてCTP移行による需要減少があります。
弊社が導入した「ブルーフィルム(IR-830)」とは?
これに対し、弊社が昨年導入した三菱製紙製の「IR-830」(ブルーフィルム)は、全く異なるアプローチで作られた製版フィルムです。
最大の特徴は、「完全ドライ(乾式)プロセス」である点です。
ベースとなるフィルムが青みがかっていることから「ブルーフィルム」と呼ばれています。
IR-830のメカニズム
IR-830は、銀塩のような化学反応ではなく、「熱(サーマル技術)」を利用して画像を形成します。
波長830nm(ナノメートル)の赤外線レーザーを照射すると、フィルム上の光熱変換層が瞬時に高温になり、これを受けた感熱層が黒化して紫外線を遮断する高濃度な画像を形成します。
【徹底比較】銀塩フィルム vs ブルーフィルム(IR-830)
具体的に、これら2つのフィルムにはどのような違いがあるのでしょうか。
3つの視点から比較してみましょう。
①品質・再現性
<銀塩フィルム>
網点といった高精細画像の描画に優れている。
ただし、現像液の濃度管理が必要で、現像液の濃度変化によって、網点濃度にばらつきが発生する。
<ブルーフィルム>
極めて高い網点品質と、シャープなエッジを実現。
レーザー光のみによる画像の描画のため、再現性が極めて高い。
品質面での進化
「ドライタイプのフィルムは、銀塩に比べて黒い部分の濃度(D-max)が薄いのではないか?」とよく言われます。
これは、描画の済んだベタ部分を光に透かして見ると、明らかに銀塩フィルムより透けて見えるからです。
しかし、三菱製紙のIR-830は、銀塩フィルムに匹敵する高い紫外線遮光性と、銀塩フィルムを超えるシャープな描画を実現しています。
これにより、シルクスクリーン製版やオフセット製版、エッチングの焼き付け、アルマイト染色の焼き付けなど、各種の製版や焼き付けにおいて、従来の銀塩フィルム使用時の紫外線ランプの強度と露光時間と同条件での使用が可能です。
②処理方式の違いによる環境負荷
<銀塩>
ウェット処理(現像液・定着液・水洗いが必要)による廃液が発生し、この廃液の処理に伴う高い環境負荷が発生する。
<ブルーフィルム>
完全ドライ処理(露光のみ、現像不要)のため廃液ゼロ、水道不使用で極めてエコな製作が可能。
ブルーフィルム最大の強みは、「現像液などの化学薬品を一切使わない」ことです。
従来の銀塩フィルムでは、日々の濃度管理が欠かせません。
また、廃液は専門の廃液業者による処理が必要で、高い環境負荷をもたらしていました。
それに対してIR-830は「光を当てたらその場で完成」するため、廃液はゼロ。
環境負荷を劇的に低減できます。
③作業環境
<銀塩フィルム>
現像液や定着液といった薬品の臭気があり、作業環境にはマイナスの要因となっています。
また、定期的に(1~2ヶ月に1回)全液の入れ替えや清掃といった現像機のメンテナンスが必要で、これも現場の作業員にとっては大きな負担となっています。
<ブルーフィルム>
臭気なし、ほぼメンテナンスフリーで通年稼働が可能。
明室で扱える作業効率の高さ
銀塩フィルムは光に非常に敏感なため、厳重な遮光管理が必要です。
フィルムの入れ替え時に、ごくわずかな光でも当たってしまうと、一瞬で感光してしまうというリスクがありました。
一方、IR-830は特定の赤外線波長(830nm)にしか反応しないため、通常のオフィスのような明るい部屋(明室)でそのまま取り扱うことが可能です。
これにより、作業効率の改善に寄与しています。
なぜ弊社は「IR-830」を選んだのか?導入を決めた2つの理由
弊社が昨年、このブルーフィルム「IR-830」の導入へと踏み切った理由は、単に「富士フイルムの販売終了に伴う代替品探し」だけではありません。
そこには、「確かな品質の製版フィルムを、お客様に将来にわたって安定供給する」という強い想いがあります。
理由1:確かな品質
ブルーフィルムは、2022年に発表されたもので、新しい技術であることは間違いありません。
我々は、長年製版フィルムの作成に携わってきた経験をもとに、厳しいプロの目で、その品質や、そもそもお客様の現場での使用に耐えうるかどうかを確認してきました。
その上で、今までの銀塩フィルムと同等、もしくはそれを超える製版用フィルムを提供できると確信できたからこそ、導入に至ったのです。
そして、私たちが2025年秋に導入後、様々な業種のお客様にご使用いただき、様々な反響をいただいている今でも、その確信に間違いはなかったと考えています。
理由2:サプライチェーンの安定化(リスク管理)
世界的に銀塩フィルムの供給元が限定されていく中、国内メーカーである三菱製紙製のIR-830を導入することは、お客様への納期や供給を将来にわたってストップさせないための「確かなリスク管理」となり得ます。
今後も、高品質で信頼のおける製版用フィルムを供給するという使命の実現のためにも、このブルーフィルムはなくてはならない存在だと考えています。
まとめ:未来を見据えた最適なものづくりへ
伝統を守り、完成された技術である「銀塩フィルム」。
そして、環境と未来を見据えて進化を遂げた「ブルーフィルム(IR-830)」。
フィルムメーカーの撤退という業界のパラダイムシフトを、弊社は「より環境に優しく、より効率的な製造体制へ進化するチャンス」と捉え、2025年秋の導入に至りました。
新システムの導入以降、現場の作業環境は大幅に向上し、何より「これまでと変わらない、いや、それ以上に安定した高品質な印刷フィルム」をお客様にお届けできております。
弊社はこれからも、時代の変化に柔軟に対応しながら、環境に優しく、妥協のない品質を追求し続けてまいります。
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