大日本スクリーン(SCREEN)のジェナセット(Genaset)、FTR-5055、富士フイルムのLUXEL IMAGESETTERやLUXSETTERといったイメージセッターを使用して製版用フィルムを出力し、シルクスクリーン製版やエッチング、アルマイト染色、オフセット製版に使用してこられた方は多いと思います。
かつて、日本の印刷・製版現場において、これらの機材はまさに「心臓部」でした。銀塩フィルム特有の深い黒、シャープな網点、そして何より「この機械を通せば間違いない」という圧倒的な信頼感。しかし今、私たちは大きな転換期、あるいは「危機」の真っ只中に立たされています。
富士フイルムや大日本スクリーンといった世界的メーカーが製版フィルム事業から撤退したことにより、今後、それらメーカーの機器を使用して製版用フィルムを出力している業者はどんどん減っていくことが予想されます。
フィルムイメージセッターは、基本的にはメーカーとの年間保守契約によって、一年に一度は点検清掃および整備調整を行い、精度を保証しながら使うことが前提です。
現在は、保守契約を結ぶことは全く不可能で、メーカーによる点検整備並びに調整は望むべくもありません。
その上、故障した場合、たとえユーザーサイドで部品を持っていたとしても、メーカーが技術者を派遣してくれるはずもなく、仮に修理するにしても代理店の技術者に頼る以外に道はありません。
また、部品がない場合は、その時点でその機器でのフィルム出力をあきらめざるを得ないのが現状です。
一方で富士フイルムや大日本スクリーン以外のイメージセッターという選択肢もあります。それらは中国製、もしくは中国製をベースに日本で主要部品を組み替えた改良版といったものです。
業界でも見聞きする機会はあるものの、まだまだ少数派です。
しかし、今後の動向によっては一定の支持を得て、導入される業者も増える可能性があると思われます。
ただ、銀塩フィルムには、銀塩フィルム特有の問題点もあります。
現在日本では、ベルギーのアグファ・ゲバルト社のみが製版用フィルム並びに現像液、定着液の供給を行っていますが、その価格は頻繁に改定され、そのたびに大幅な値上げが行われるという状態が続いています。
価格だけでなく、その供給体制にも不安があり、納期も不安定となっています。
それに加えて今後、環境規制も益々強まっていくことが予想され、薬液を使うことが前提の銀塩フィルム方式は、時代的にもその存続が危ぶまれる恐れがあります。
公開:2026.05.12
代替技術であるインクジェット方式による製版フィルム
インクジェット機を改良することにより、銀塩製版用フィルムに匹敵する黒濃度を実現し、銀塩フィルムの代替として使用するためのフィルムを描画する機器も販売されています。
用途によっては、それも選択肢として有効ではあると思われます。
ただし、インクジェット方式には、方式そのものによる限界があります。
①エッジの滲み
インクジェット方式では、インクを吹き付けて描画するという特性から、どうしてもメディアに着弾するインクのエッジが滲んで描画されてしまいます。
描画する最小単位のドットが滲んでいるので、そのドットで構成されるパターンのエッジも自ずと滲んだものとなってしまいます。
特に細い線や網点では、描画の粗さと滲みがそのままパターンに影響してしまいます。
②寸法精度
インクジェット機として印刷に使われる機器は、もともと厳しい寸法精度が要求される機械として設計されていません。
製版用フィルム用と銘打って販売されている機器も、その機械を流用して作られているので、高い寸法精度要求に応えられるものではありません。
描画再現性も悪いため、連続出力したときでさえ、その位置見当は多色印刷に要求される水準にはほど遠いものとなっています。
③濃度の限界
その濃度は、製版用フィルム向けに改良されているとはいう物の、吹き付けられたインクという限界があるため、細線や網点のみならず、ベタ部分においても紫外線の遮光という面では長時間露光に耐えられるものではありません。
④再使用の為の保管
インクジェットのインクは、吹き付けによりメディア(フィルム材料)に定着しているだけなので、はがれやすく、再使用は困難な場合がほとんどです。
そのため、使用する度に再度描画する必要があるため、その為のコストがかかってしまいます。
また、フィルムが汚れてしまった場合、フィルムクリーナーやアルコールを使うとトナーが流れ落ちてしまうので、溶剤が含まれる液体を使用することはできません。
弊社の選択
製版用フィルムの専業メーカーとして出発した蔵所写真工芸は、長年、富士フイルム製のLUXSETTER RC5600を使用して、フィルム出力を行ってきましたが、ここまで述べてきた状況から、次に導入すべき様々な新しい出力方式を検討しました。
その結果、KODAK製TRENDSETTER Q800と三菱製紙製のTRF-IR830の組み合わせによる、新しい製版フィルム出力システムを導入いたしました。
これは、レーザー光をフィルムに照射することによる発熱を利用して、フィルム上にパターンを描画するものです。(サーマルレーザー方式)
描画機であるKODAK TRENDSETTER Q800は、オフセット印刷用のCTP描画装置であることから、その寸法精度や寸法再現性は極めて高いものです。
また、描画メディアの三菱製紙製TRF-IR830は、見た目や厚みが今までの製版用フィルムとは異なるものの、製版用フィルムとしての性能は、今までの銀塩方式によるフィルムと同等かそれ以上のものとなっています。
解像度は2400dpiとそれほど高くはありませんが、シルクスクリーン印刷でボトル印刷等に用いられる非常に小さな文字の再現も問題ありません。
また、紫外線に対して十分な遮光性があり、シルクスクリーン印刷はもとより、エッチング、アルマイト染色、オフセット印刷といった各種用途向けにも問題なく使用できます。
KODAK TRENDSETTERのSquareSpot(スクエアスポット)技術
従来のイメージセッターのレーザー光によるドットは、基本的には円形で、ドットの端ほどレーザー光が弱くなるため、ドットの輪郭がボケた物になりがちでした。しかし、KODAK独自の技術であるSquareSpot技術は、レーザーを「四角形」に照射してドットを描画し、ドットの輪郭部が非常にシャープな仕上がりとなります。
これにより、描画されるドットも四角形に近い物になり、ドットの集合によって形成されるパターンも、よりシャープな仕上がりを実現しています。
網点の精度も高く、1%の網点から、99%のシャドウまでしっかりと再現することができます。
描画パターンの安定性
フィルムの感熱層がレーザー光によって発熱し、その熱を受けて黒化層が発色する仕組みの為、薬液の処理を全く必要としません。
今までの銀塩方式の製版用フィルムの場合は、現像液や定着液の濃度や温度、現像機を通過する時間と言った諸条件によってドットの形状や大きさが影響を受けていましたが、このサーマルレーザー方式は薬液による処理を必要としないため、非常に安定した描画品質を実現しています。
1bit TIFFデータでの入稿
入稿データは、基本的には今までのイメージセッターと同じで、AIやEPS、PDFといった各種データに対応しています。
また、2400dpiの1bit TIFFデータでの入稿も可能です。今お使いのCelebra(セレブラ)やRENATUS(レナトス)といったRIPソフトから2400dpiで出力された1bit TIFFデータを送って頂ければ、そのままのイメージで描画することができるので、KODAK TRENDSETTERの安定した描画性能と相まって、網点形状や網点濃度といったセンシティブな問題に対しても安心してご利用いただけるはずです。
| 銀塩フィルム | インクジェットフィルム | サーマルレーザーフィルム | |
| 解像度 | 高い(1200~4000dpi) | 低い | 高い(1200、2400dpi) |
| 濃度 | 高い(D-max 3.5~4.0) | 比較的低い | 高い(D-max 3.5程度) |
| 寸法安定性と寸法精度 | 高い(ドラム式は非常に高い) | 低い | 非常に高い |
| フィルムの資材コスト | 高い(今後はさらに上昇の懸念) | 高い | 高いが安定 |
| 設備の導入コスト | 高い | 低い | 高い |
<今までの製版用フィルムの拡大画像>
エッジにガタつきが多く、幾分ぼやけた像となっている。

<TRENDSETTER Q800で描画したTRF-IR830の拡大画像>
エッジが直線的で、シャープな像となっている。

弊社のフィルム出力サービスのQ&A
Q:黒い部分の濃度が低く、青い部分の光の透過も少ない様に見えますが、本当に製版等に使用して大丈夫ですか?
A:はい。人間の目(可視光)ではそのように感じますが、製版等に使用する紫外線においては今までのフィルムと同様に十分な遮蔽性があります。
シルクスクリーン版、エッチング、アルマイト染色、オフセット製版において十分な実績があり、安心してご使用いただけます。
Q:フィルムクリーナー等を使うことはできますか?
A:はい、使用可能です。ただし、アルコール等の溶剤が成分に含まれる物を使用する際は、濡れたままで放置せず、使用したらすぐに乾燥させるようにしてください。
溶剤に濡れたままで放置すると、膜面が弱くなります。
Q:フィルムが厚い分、注意することはありますか?
A:巻いた状態で保管すると今までのフィルム同様に巻き癖が付きますが、分厚い分、巻き癖が強くついて、今までのフィルムより再使用が困難になる場合があります。
平たい状態での保管をお願いします。
Q:最短納期はどれぐらいですか?
A:昼の12時までの入稿とご決済完了で、当日発送可能です。
Q:データの入稿方法は?
A:メールに添付にてご送付頂くことができます。データが重い場合は、Web上のデータ転送サービスをご案内させて頂きます。
まとめ
有限会社 蔵所写真工芸では、現在、新しいシステムであるKODAK製TRENDSETTER Q800と三菱製紙製のTRF-IR830の組み合わせによる製版用フィルム出力を行っています。
各種サイズの1枚からのフィルム出力と発送に対応しており、オンライン決済でのお支払いが可能です。
詳しくは弊社ホームページの「フィルム出力」にアクセス頂き、価格表等をご確認頂ければと存じます。
蔵所写真工芸では1960年代の創業以来、金属エッチング、アルマイト染色、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷といった各種印刷等の用途向けに製版用フィルムを提供してまいりました。
今回の新システム(TRENDSETTER Q800+TRF-IR830)稼働後も、これらの用途でご利用になる多くのお客様に引き続き問題なくこの新しい製版用フィルムをご利用頂いております。
昨今の製版用フィルムに関する厳しい環境の変化にご対応頂き、御社の事業継続性を強化して頂く為にも、弊社のフィルム出力サービスを是非一度ご検討いただければと存じます。




