印刷チャレンジ 〜Vol.14〜【トレーニングチューブ編】
様々な素材への印刷に挑戦し続けるこちらの企画では、今回フィットネス用のトレーニングチューブにUVインクジェット印刷を実施し、耐久性を検証しました。
公開:2025.09.17
柔軟でよく伸びるゴム系素材は、印刷にとって最難関の部類です。
インクの硬さとプライマーの有無を組み合わせた四条件で、テープ剥離・曲げ・引っ張りという三つの試験を行い、どこまで通用するのかを実データで確かめました。
今回の目的と素材の特徴
目的は「柔軟素材に対するインク層の追従性と密着性」を把握することです。
対象のトレーニングチューブは高い伸縮性を持つゴム系材料です。
無処理では密着が不足する可能性があるため、プライマーの効果検証も重視しました。
実験設計(インク種・プライマー)
行った印刷は以下の四条件です。
1.硬いインク:プライマー無し
2.硬いインク:プライマー有り
3.やわらかいインク:プライマー無し
4.やわらかいインク:プライマー有り
印刷手順のポイント
材料の固定と高さ合わせ
円筒形状に近いチューブは膨らみやすいため、両面テープで固定し、表面を水平に保ちました。
ヘッド高は擦りを防ぐ最低安全値に設定しました。
耐久テストの方法
評価は三項目で実施しました。
テープテスト、曲げテスト、引っ張りテストになります。
曲げテストは印刷部位を中心にU字に折り曲げ、目視でクラックや剥離の有無を確認しました。
引っ張りテストは、一定伸長率までゆっくり引き延ばして状態を観察しました。
テスト結果(四条件の比較)
1.硬いインク:プライマー無し
・テープテスト:OK
・曲げテスト:OK
・引っ張りテスト:NG(パキパキに割れる)
この条件では、表面に直接インクを乗せただけですが、意外にもテープテストは問題なし。
強めに貼り付けて剥がしても剥離はなく、初期密着性は十分でした。
また、曲げテストでも良好な結果で、折り曲げても目立つクラックは発生しませんでした。
ただし、引っ張りテストでは顕著に割れが発生。特に大きな伸長率をかけた瞬間に、表面全体が「パキパキ」と音を立てるようにひび割れました。
この結果から、硬いインクは局所的な応力には耐えられるものの、全体に均一なひずみが加わる引っ張りには極端に弱いことが分かりました。
2.硬いインク:プライマー有り
・テープテスト:OK
・曲げテスト:OK
・引っ張りテスト:NG(パキパキに割れる)
プライマーを塗布した場合も、もちろんテープテストは合格。粘着テープを繰り返し押し当てても剥がれは見られず、プライマーによる密着性の向上が確認されました。
曲げテストにおいても安定しており、折り曲げてもクラックや剥離は発生しませんでした。
しかし、引っ張りテストではやはりNG。パキパキと割れてしまいました。
つまり、プライマーは「剥がれる」ことを防ぐものの、インク自体の破断伸びを超える応力には無力だという結果になりました。
3.やわらかいインク:プライマー無し
・テープテスト:OK
・曲げテスト:OK
・引っ張りテスト:NG(細かいひび割れ)
やわらかいインクを使用した場合も、テープテスト・曲げテストはいずれも良好でした。
特に曲げに関しては、硬いインク以上に自然に追従し、印刷部分が柔らかく曲がっても違和感なく維持されました。
一方で、引っ張りテストでは細かいひび割れが発生。硬いインクのように一気に割れるのではなく、表面全体にクモの巣状の微細クラックが入る形でした。
このため、一度の伸長ではデザインが完全に崩壊するわけではありませんが、繰り返し使用すると徐々に亀裂が広がり、劣化していくと考えられます。
4.やわらかいインク:プライマー有り
・テープテスト:OK
・曲げテスト:OK
・引っ張りテスト:NG(細かいひび割れ)
最後に、やわらかいインクとプライマーを組み合わせた条件です。
テープテストは安定しており、粘着テープを強く押し付けてもほぼ変化が見られませんでした。
曲げテストも問題なしで、インクが柔軟に素材の変形に追従しました。
しかし、引っ張りテストでは微細なひび割れが確認されました。
やわらかいインク自体が伸び率の限界に達するとどうしてもクラックが出てしまうという結果です。
それでも、硬いインクに比べると破壊の進行は緩やかで、デザインの見た目は長持ちする可能性があります。
結果から見えたこと
意外だったのは、硬いインクでも曲げには耐えられた点です。
一方で、引っ張りは面全体に均一なひずみが加わるため、インクの破断伸びを超えやすく、脆性的なクラックが一気に進展するものと思われます。
やわらかいインクは微細クラックで踏みとどまるものの、完全追従は難しく、繰り返し伸長では徐々に白化や割れが増える可能性があります。
プライマーは密着性の向上には有効でしたが、引っ張りでの破断を止めるものではない、という整理が妥当です。
まとめ:柔軟素材に挑戦した結果と今後への展望
トレーニングチューブのような高伸長素材に対し、UVインクジェット印刷はテープ剥離や曲げには一定の耐性を示しましたが、引っ張りには弱いという結論になりました。
硬いインクでも曲げに耐えた点は新たな発見で、薄膜・微細化・配置最適化により、装飾用途では実用の目があると考えています。
引き続き、素材の限界に挑戦し、実務に役立つ条件とデザイン指針を検証してまいります。